全身性エリテマトーデス(SLE)
遺伝的素因にウイルス・薬剤・ストレス・ホルモン・紫外線などの様々な環境要因が加わり、多様な自己抗体が産生される慢性炎症性疾患である。病態の中心となるのは、自己抗体の直接作用(Ⅱ型アレルギー)と自己抗体により形成される免疫複合体の組織への沈着(Ⅲ型アレルギー)である。他に自己反応性T細胞(Ⅳ型アレルギー)の関与も認められる。日本における有病率は年々増加している。男女比は約1:10であり、10~30歳代ぼ妊娠可能年齢の女性に好発する。かつては腎病変などによる死亡が多かったが、現在では5年生存率は90%以上である。患者の約20~40%に抗リン脂質抗体症候群(APS)が合併する。
SLEは全身のあらゆる臓器を侵し、様々な症状を示す。中でも皮膚症状と関節症状はほとんどの症例で見られる。
<主な症状>
① 全身症状…診断確定前から易疲労感や体重減少がみられる場合がある。38℃以上の発熱もしばしばある。また血球成分に対する抗体産生などによる溶血性貧血・白血球・血小板減少がみられる。
② 皮膚粘膜症状(約90%)…鼻根部~両頬に見られる蝶形紅斑、顔面に好発する円板上紅斑(ディスコイド疹)、口腔内無痛性潰瘍が特徴的である。手指に見られるしもやけ状の皮疹や限局性脱毛(可逆的)、光線過敏なども頻度が高い。Raynaud現象は約30%にみられ、初発症状となることがある。
③ 関節症状(約95%)…多発性の関節炎・関節痛がみられる。骨破壊、関節変形・破壊をきたすことはまれである。
④ 腎症状(約50~60%)・・・ループス腎炎は、初発症状の一つで重大な予後決定因子となる。免疫複合体の腎糸球体への沈着により炎症が引き起こされる。(Ⅲ型アレルギー機序)
約半数がネフローゼ症候群へ移行し、浮腫、蛋白尿、血尿などを示す。抗ds抗体の高値、血清補体値の低値はループス腎炎の活動性を示し、これらが改善しない場合、末期腎不全へと進行しやすい。病理所見では、係蹄壁の肥厚によるwire loop lesionやメサンギウム細胞の増加が特徴的である。
⑤ 精神症状(10~20%)…CNSループスとよばれる中枢神経症状がみられ、腎症状と並ぶ予後決定因子となっている。精神症状と神経症状の2つに大別でき、精神症状は頻度が高く、うつ状態、不安障害、認知機能障害、せん妄など様々なものが認められる。病態としては、闘病に伴う心因的なもの、神経症状を合併した器質的障害(特に脳血管障害)によるもの、器質的病変を伴わないサイトカイン動態によるものなど、様々な病態が考えられている。一方、神経症状ではけいれん・脳血管障害などがよくみられる。多くは、抗リン脂質抗体による血栓症・血流障害、そのほかの自己抗体などによる血管炎によるものと考えられている。中枢神経症状以外にも、栄養血管の炎症などによる知覚障害、多発性単神経炎などの末梢神経症状もきたす場合がある。
⑥ 心症状…心膜炎・心筋炎・心筋梗塞・動脈炎・僧房弁閉鎖不全症・大動脈弁閉鎖不全症などがみられる。
⑦ 肺症状…胸膜炎が最もよく見られ、呼吸・体動時に胸痛を認める。間質性肺炎・肺胞性出血はまれだが治療抵抗性であることが多く、予後不良である。
⑧ その他・・・血管炎やステロイドが原因となる無菌性骨壊死がしばしばみられる。腹痛・悪心・便秘などの消化器症状やリンパ節の腫脹、膀胱炎などもみられることがある。
診断基準としては以下の11項目のうち4項目一致でSLEと診断できる。
① 蝶形紅斑
② 円板上紅斑
③ 光線過敏症
④ 口腔内潰瘍
⑤ 非変形性関節炎(2関節以上)
⑥ 漿膜炎(心膜炎or胸膜炎)
⑦ 腎障害(持続性蛋白尿or細胞円柱の出現)
⑧ 神経学的障害(けいれんor精神症状)
⑨ 血液学的異常(溶血性貧血or白血球減少症orリンパ球減少症or血小板減少症)
⑩ 免疫学的異常(抗ds抗体陽性or抗Sm抗体陽性or抗リン脂質抗体陽性)
⑪ 抗核抗体陽性
治療としては中心はステロイドであり、軽症例ではプレドニゾロン0.5mg/体重(kg)/日以下で軽快することが多い。臓器障害が全くない場合、NSAIDsで対処することもある。急速進行例やCNSループスなどの重症例にはステロイド大量投与やパルス療法が行われる。重症例のうちCNSループス、ループス腎炎では初期治療から免疫抑制剤を併用するのが原則で、間欠的シクロスファミド静注療法が一般的である。
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