破嚢

後嚢破損

超音波水晶体乳化吸引術が普及した現在、後嚢破損の発生率は施設間、術者間の差はあるが約3%と言われる。逆にどんな名人でも破嚢のリスクはゼロではない。その後の適切な対応によって、術後の視機能は良好に保たれる。しかし、破嚢した場合、破嚢しない場合に比べて、術後感染症の発生が10倍、術後の網膜剥離の発生が8倍になるとのデータがある。術後の観察には注意が必要である。

原因

原因を列挙する。

①前嚢切開のtearが、眼内操作中に後嚢側に回るケース

②超音波によって後嚢が破損するケース

③I/Aハンドピースによる吸引で後嚢が破損するケース

④capsuler block syndrome

⑤IOL挿入時

予防

①の予防

ⅰ)CCCを確実に作成する。作成できなかった場合、一箇所のtearだとストレスが集中しやすく危険。CCCがincompleteの場合、むしろcan-opener法の方が安全に手術を完遂できる。もしくはtearを人工的に複数作成する。

ⅱ)前房の深さを安定させる。超音波のプローブを眼内より引き抜く際に前房が虚脱し、前嚢の裂け目が後嚢に回りやすい。PEA中に前嚢切開のtearを発見したら、粘弾性物質を眼内に注入しながらプローブを引き抜く。

②の予防

ⅰ)超音波の発振は水晶体嚢から離して、核の引き寄せはできるだけ左手のチョッパーを使うこと。無理なプローブ操作が破嚢の誘因となる。「超音波プローブは刃物と思え」核片の吸引が弱い時は、超音波スリーブの閉塞を疑い、まずは機械をチェックする。無理な操作を避け、粘弾性物質を用いた核片の移動は有効である。

ⅱ)可能ならば前房安定性の高い機種を選択する。

③の予防

ⅰ)12時の皮質を吸引時に無理な操作のために生じやすい。12時の皮質は深追いせず、バイマニュアルハンドピーズで吸引、あるいは眼内レンズを挿入後にループを回すことで除去できる。

ⅱ)後嚢混濁をcapsule vacuumの設定で吸引する際にも注意が必要である。機器の吸引力のゼロ設定がずれていて破嚢したケースを経験した。機器の設定よりも機器が発振する音の聞き分け、フットスィッチの踏み加減等を重視すべきである。術者は自分の五感に頼らなければいけない。

④の予防

ⅰ)見えない空間での出来事のため、一番予見しにくい。CCCが小さい場合は、水流分離(hydrodisection)の際に水晶体を後房側に押して水晶体ー後嚢のスペースの圧を逃がす必要がある。

対処法

破嚢が起こったら。。

程度の差によって対応は異なるが、まずはひとつ深呼吸して精神を落ち着かせる。術者の技量が一番試される状況である。

皮質、核上皮は硝子体腔に落下しても時間と共に消失する。(落下させないにこしたことはないが)長期的な視機能を最優先するなら、むやみに術創を拡大すべきではない。改めて適切な硝子体手術を施行すべき。

推奨する手順(ご自由に加筆下さい)

①核片を眼外に挽出する。

超音波乳化吸引術で可及的に作業する。ハンドピースの出し入れはしない。硝子体索が絡んだり、核の不安定性を感じたなら、術創を拡大し、粘弾性物質を使用して用手的に挽出する。拡大する範囲は、小核片なら4ミリ程度で十分。

②前部硝子体の切除

眼内レンズを嚢内に固定する事は諦める。よって、後嚢は不要。後嚢の破れた部位より硝子体カッターを挿入し、前部硝子体切除を十分に行う。この作業は硝子体腔まで思い切ってプローブを進めるべし。後嚢を切除して構わない。硝子体を十分に切除する事により次のステップが容易になる。また、pars planaや前房穿刺創部に還流ポートを設置し、硝子体カッターをpars planaから挿入し、後房から水晶体後部の前部硝子体切除を行なう方法もある。 なお、前部硝子体切除の際に透明な硝子体を可視化する目的で、白色の粒子であるトリアムシノロン(ケナコルト)の前房内注入が行なわれることがある。

③皮質の吸引

3ステップ機能(還流、吸引、切除)の硝子体カッターを使用する。その際、バイマニュアルで作業する事を推奨する。二つのサイドポートを使用するか、サイドポートと強角膜創を使用する。

④眼内レンズの挿入

嚢外のスペースを粘弾性物質で十分に確保し、0.5~1.0のパワーを落とした眼内レンズを挿入する。

⑤縮瞳

必ずオビソートで縮瞳させて、硝子体索の脱出の有無を確認する。

⑥硝子体索の切除

還流無しの硝子体切除を推奨する。還流する事により硝子体索の所在が不明瞭になりやすい。粘弾性物質を補充しながら、場所を確認しながら行う。

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