加齢に伴う前立腺移行領域の腺上皮および間質細胞の過形成(前立腺肥大)によってかぶ尿路閉塞が生じ、様々な下部尿路症状(残尿感、頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿、尿勢低下、尿閉など)を呈するようになった状態である。病因として男性ホルモンが強く関与している。
前立腺肥大症において尿道の閉塞が起こる機序としては、男性ホルモン(アンドロゲン)は前立腺内で5α還元酵素によりDHTに変換され、その作用により前立腺移行領域が肥大、尿道の閉塞が生じる機械的閉塞と、α1受容体の機能が亢進し、交感神経刺激により前立腺内の平滑筋などが過剰に収縮し、尿道の閉塞が生じる機能的閉塞の二つがある。症状の出現には両方の機序が関与しており、肥大した前立腺(機械的閉塞)内の平滑筋に過剰収縮が起こる(機能的閉塞)ことでさらに尿道が狭窄する。
前立腺肥大症の症状は機能障害の程度により3つの時期に分けられる。
第1期(膀胱刺激期)…尿道・膀胱への刺激・圧迫により頻尿、尿意切迫感、下腹部の不快感、圧迫感、軽度の排尿困難を呈する。
第2期(残尿発生期)…悪化する頻尿や排尿困難などの症状により残尿が出現する。残尿に感染が起こり膀胱炎などの尿路感染症状が起こりやすくなる。飲酒や風邪薬服用で急性尿閉が起こることもある。
第3期(慢性尿閉期)…尿閉が続くことで腎機能が低下する。溢流性尿失禁が出現することがある。
これらの症状を客観的にかつ定量的に評価する方法として、国際前立腺症状スコア(I-PSS)とQOLスコアが用いられている。
検査としては、まず直腸指診で、表面平滑、弾性硬の前立腺を触知する。血液検査ではPSAは基準値以内、ときに軽度上昇することもある。超音波検査で移行領域主体の前立腺肥大を認め、前立腺容積が上昇している。尿流動検査では尿流率が低下し、残尿量が上昇する。前立腺肥大の治療は、まず薬物療法を行う。なかでも前立腺や膀胱頭部の平滑筋の収縮を抑制するα1受容体拮抗薬が第一選択になる。一方、抗アンドロゲン薬は前立腺容積を縮小させるが即効性に乏しく、また副作用として女性化がみられる。薬物療法の効果が不十分な患者や、尿閉、繰り返す尿路感染症、腎機能低下などの合併症がある患者には、外科的治療としてTURP(経尿道的前立腺切除)と開放手術(被膜下前立腺腺腫核出術)がある。TURPは開腹手術に比べて侵襲が少ないので標準的な手術療法となっている。推定容積が100mlを超えるような大きな肥大の場合にはレーザーを用いた前立腺核出術(HoLEP)や被膜下前立腺腺腫核出術が適応となる。