心房中隔欠損(ASD)
心房中隔欠損症は胎生期の心房中隔の発達障害により、先天的に心房中隔に欠損孔が生じ、欠損孔を通じて左右シャントを生じ、右房・右室への容量負荷をきたす。通常、乳幼児期にはほとんど症状がなく雑音も弱く、しばしば見落とされる。幼児期や学童期に発見されることが多く、30~40歳代以降に心不全症状が出現する。成人での先天性心疾患の約45%を占め、男女比1:2で女性に多い。
小児期から心雑音があるが、発育や身体機能に異常なく経過し、思春期から中年以降になって労作時呼吸困難や易疲労感が生じる。ASDの心雑音はⅡ音の固定性分裂、胸骨左縁下方でのⅠ音の亢進、三尖弁性拡張期雑音(ランブル)が生じる。これは、短絡量が多くなることによって右房への血流がさらに増加し、三尖弁を通る血液もそれに伴い増加するため、相対的な三尖弁狭窄症(TS)をきたすことで聞こえる。また、欠損孔を通じて砂防から右房に血液が流入し、右室から肺動脈への駆出量が増加することによって相対的な肺動脈狭窄症(PS)が生じることによる、肺動脈領域での収縮期駆出性雑音も聞こえる。
ASDは、中隔の発達が不十分な場合に生じるもので、欠損部位により、一次孔型、二次孔型、静脈同型に分類される。最も多いのは、二次孔型で、一次中隔または二次中隔の形成不全によって二次孔が閉鎖しない状態である。70%がこれにあたる。次に多いのが、一次孔型で、これは心内膜床の発達障害によって、一次中隔と心内膜床の融合(一次孔の閉鎖)が起こらずに一次孔が開港したままの状態である。僧房弁閉鎖不全症(MR)や三尖弁閉鎖不全症(TR)を合併しやすい。20%がこれにあたる。残りの10%が静脈洞型である。正常では発生初期の静脈洞は、上・下大静脈と冠静脈洞を形成し、右房に開口するが、この形成過程が不完全だと、開口部周辺の心房中隔に欠損を生じる。上大静脈の開口部周囲の欠損である上位欠損が多く、部分肺静脈還流異常症の合併が多い。そのほか、下位欠損、冠静脈洞欠損がある。
心電図では、軽度の右軸偏位、不完全右脚ブロックが確認できる。胸部X線写真では、肺動脈拡大により左第2弓が突出し、右房の拡大により右第2弓も突出している。右房・右室の拡大や肺血液量増大の結果。肺動脈と拡大した右室が心陰影の左縁を構成する。また、肺血管陰影の増強が見られる。心エコーではカラードプラ法で心房中隔欠損孔での砂防から右房へのシャントが見られる。また左室Mモード心エコー法では通常、収縮期には寝室中隔は後方(左室側)へ向かうが、ASDでは逆に前方(右室側)へ向かう。これを寝室中隔の奇異性運動という。右室腔の拡大のため、心室中隔が正常より後方に位置している。
ASDは心室中隔欠損とは異なり自然閉鎖はまれである。軽症(肺体血流量比<1.5)の場合は、無治療のことが多い。それ以外の場合は就学期前後、あるいは発見後可及的早期に手術またはカテーテル治療を行う。手術は欠損部の直接縫合もしくはパッチ閉鎖で行う。カテーテル治療は、経皮的カテーテル下において閉鎖栓で心房中隔欠損部位を挟み込み、金属メッシュ内部にあるポリエステル製の布製パッチにより閉鎖する。治療の対象は肺体血液量比>2.0である。