聴神経鞘腫
頭蓋内神経鞘腫は脳腫瘍の約10%を占めるが、その約90%が第Ⅷ神経(聴神経)の枝にある前庭神経に好発する。好発年齢は40~70歳で、やや女性に多い傾向がある。
聴神経は橋でシナプスを形成し、内耳道に入ろ、この付近で聴神経を取り巻く髄鞘も、神経膠からSchwann細胞に代わる。この部分、つまり内耳道に入ったばかりのところで腫瘍が生じ、内耳道を破壊して小脳橋角部に向かって進展していく。
初発症状は耳鳴りと難聴である。難聴は、前庭神経にできた腫瘍が隣を走る蝸牛神経を圧迫するために生じるため、感音性難聴で、特に高音部が障害される。感音性難聴は内耳に異常がある内耳性難聴と内耳よりも中枢に異常がある後迷路性難聴に分かれるが、神経鞘腫に伴う感音性難聴は後迷路性難聴となる。この難聴は純音よりも語音のほうが聞き取りにくいという特徴がある。
腫瘍が大きくなると、三叉神経を圧迫して、角膜反射の低下や顔面に異常感覚などが生じる。小脳橋角部まで伸展すると、中枢神経が麻痺した前庭神経により、めまい症状と眼振が生じる。とくにBruns眼振(患側を見たときには高振幅低頻度、健側を見たときには低振幅高頻度に出現する方向交代制眼振)が見られる。末期になると顔面神経麻痺の症状がみられることもある。
診断には生理学的検査と画像が用いられる。純音聴力検査(オージオグラム)では、高音域障害中心の感音性難聴を認める。聴性脳幹反応(ABR)では最も大きな波であるV波が出現するまでの時間(Ⅰ-Ⅴ波時)が延長したり、Ⅰ波のみを認め、Ⅱ波移行が消失するといった症状がみられる。また、リンネテスト陽性でWeberTestでは健側に大きく聞こえる。
(※リンネテスト⇒気導と骨導の聴取時間の長さを比較する音叉による聴力検査)
(※WeberTest⇒被験者の前頭部の正中にて音がどちらに偏位するのかを調べるテスト)
また、温度性眼振検査(カロリックテスト)で半規管麻痺の所見が得られる。末期では、顔面神経の枝の一つであるアブミ骨神経が麻痺するために、アブミ骨反射が低下もしくは消失する。
画像所見は、CTやX線で内耳道の拡大や小脳橋角部に腫瘍が認められる。
治療は経過観察、外科的摘出術、放射線治療(γナイフ)の3つがある。小さな内耳道に限局した小さな無症状の神経鞘腫の場合は定期的にMRIで経過観察をする、しかし、聴力障碍の生じているものは、手術の適応となる。しかし、この手術は顔面神経や聴神経を傷つけてしまうリスクを伴い、大変難しいものとなる。その場合、放射線の定位放射(γナイフ)によって治療を行うこともある。