顎骨骨髄炎
ブドウ球菌、連鎖球菌、そのほかの病原菌の感染による骨髄、ハバース管の炎症であるが、同時に胴部の骨膜にも炎症が波及する、コツ髄腔や骨膜下における膿汁の貯留のため、骨組織の循環障害をきたし、病変が長期に及ぶと腐骨が形成される。
顎骨骨髄炎の局所的原因を見ると歯周組織、抜歯窩の炎症あるいは嚢胞、腫瘍からの二次感染が原因となることが多い。骨髄炎の発生には骨の感染抵抗の減退、循環不全が関係するが、その原因としては強度の栄養障害、、糖尿病、白血病、無顆粒球症、免疫不全、高齢などがある。また放射線照射後(50~100Gy以上)に放射線骨壊死が生じやすい。
骨髄組織に始まった急性化膿性炎は骨内膜組織の壊死をお越し、さらに骨梁の血液供給障害、壊死をおこし、腐骨が形成される。炎症はハバース管、フォルクマン管を通って拡大し、骨皮質の貧血を起こし、炎症が骨表面に到達すると骨膜を拳上し、皮質骨の壊死が生じる。腐骨を生じることもある。炎症が慢性となり顎骨内に長くとどまり、頬部皮膚あるいは歯肉に廔孔を残すことがある。骨髄炎は多くの場合、下顎骨に生じる。これは上顎骨では血液供給は多くの血管から行われるが、科学では、特に骨体部では下顎管を通るただ一つの下歯槽動脈がおもたる血液供給管であり、骨質の血液供給不全が生じやすいためと考えられる。
骨髄炎の経過によって急性と慢性にわけられる。
①
急性顎骨骨髄炎
多くの場合、歯性混合感染に続いて発症し、顎骨の深部痛を生じる。顎部の痛みは側頭部に放散性の頭痛を伴う。炎症が骨膜に広がると骨膜炎となり、頬部あるいは顎部の主張が生じる。下歯槽神経、眼窩下神経の支配領域の知覚麻痺が生じる。下顎骨骨髄炎の時。オトガイ神経領域に生じる知覚麻痺をワンサン症状という。これは下歯槽神経の機能障害、あるいは神経の変性のために生じる。罹患部の歯牙の動揺、打診痛は原因歯だけでなく、原因歯から近心位にある骨植堅固な歯にも見られる。これを弓倉症状といい、下顎骨骨髄炎(臼歯部)の早期診断の指標となる。顎下リンパ節の有痛性腫脹を伴う。全身症状としては中等度、あるいはそれ以上の発熱、ときに悪寒戦慄を伴う。骨髄炎は進展すると必ず骨膜炎を発症し、骨髄骨膜炎となるが、これを総称して顎炎(顎骨炎)ということが多い。
全身的には安政、抗生物質、消炎剤、鎮痛剤の投与を行う。急性期の初期には抗生物質の大量点滴投与がより有効である。起因菌の感受性の高い抗菌剤が望ましいが、感受性テストの結果がわかるまでには、日時がかかるので、薬剤過敏皮内テストを行い、とりあえず広範囲かつ抗菌力の高い抗菌剤を投与する。局所的には口腔内洗浄、とくに原因歯となっている歯の歯周ポケット洗浄、根幹内ドレナージを行い、症状によっては骨皮質穿孔あるいは抜歯による骨髄内圧の減圧を図る。膿瘍形成があれば切開、排膿を行う。
②
慢性顎骨骨髄炎
弱毒菌の感染あるいはPaget病や大理石病のような長期に及ぶ異常栄養の骨に生じやすい。また急性骨髄炎や急性骨膜炎に続発する。血管塞栓、骨組織壊死のため腐骨を生じ、骨柩に囲まれ、長期間存在する場合がある。腐骨形成は小児では特に早い時期に起こる。小児期の骨髄炎のため下顎骨発育不全をきたすと小下顎症となり、鳥貌を呈する。疼痛、腫脹は軽度であるが、腐骨を囲む骨柩内からの膿が歯肉廔、頬廔を通して排出される。排膿が続いている間、痛み、腫脹を全く訴えないこともある。骨破壊が強度の場合、まれに病的骨折が生じる。
X線所見は骨髄炎の病期によって異なる。早期には顎骨体部での異常は見られず、X線像の変化は骨髄炎の約3週目になって初めて観察される。骨組織のX線所見の異常は石灰塩の30~50%の減少が生じて初めて観察され、骨梁の消失、透過性の亢進、斑紋状陰影が見られる。骨シンチでは、X線像で異常所見の認められない骨髄炎の比較的早期にRIの集積が認められる。またCT所見においても骨破壊像が認められる。膿瘍には切開、排膿を行い、原因歯および、歯髄死をきたし、動揺の著しい歯の抜歯を行う。腐骨ないし感染骨組織を外科的に切除、ドレナージをはかるとともに、原因歯に対し感受性の高い抗菌薬を投与する。除去骨片が大きい場合は、術後の骨折予防に留意し、顎骨の固定あるいは骨移植を行う。