Shy-Drager 症候群(シャイ・ドレーガー症候群)

成人に、起立性低血圧や排尿障害、発汗低下などの自律神経症状を主たる症状として初発し、遅れて小脳症状やパーキンソン症状などの中枢神経症状が加わる多系統萎縮症の一病型である。
【疫学】
男女比3〜4:1で男に多く、50歳台に好発する。
オリーブ橋小脳萎縮症: シャイ・ドレーガー症候群: 線条体黒質変性症
の頻度(%)の内訳は、
80: 16: 4
であった。
【病理】
交感神経節、脊髄灰白質の中間質外側部、延髄の下オリーブ核や迷走神経背側核、橋核、中脳の黒質、線条体、小脳皮質等に神経細胞の変性、脱落及びグリオーシスが著しい。他の多系統萎縮症の病型と同じく、αシヌクレインが過剰に発現蓄積し、嗜銀性封入体をみる。
病因は不明である。
【症状】
初発症状は、顕著な自律神経障害、特に排尿障害と起立性低血圧が多い。
排尿障害には、頻尿、夜間尿、残尿感、排尿困難、尿失禁、尿閉などがある。
起立性低血圧が強いと、失神することがある。食事、排尿、入浴に伴い強い倦怠感が誘発される場合、血圧の低下によることがある。
便秘、便失禁、発汗障害、大きな鼾、睡眠時無呼吸などもある。男性ではEDをきたす。発汗低下をきたすので、夏などでは体温が上がる。
通常、経過と共に小脳症候やパーキンソニズムなどの症候が加わってくる。
【診断】
成年期以降に顕著な自律神経症状で発病し、慢性進行性経過をとり、後に小脳徴候やパーキンソニズムが出現し、頭部画像検査で小脳と脳幹萎縮を認める。
鑑別を要する疾患として、自律神経症状を伴うレビー小体病、純粋自律神経不全症、自律神経ニューロパチーなどがある。特に自律神経障害のみで経過し、錐体路徴候、パーキンソニズム、小脳症候を伴っていない場合は、経過を慎重に検討して診断する必要がある。
【治療】
対症療法を行う。起立性低血圧症に対する生活指導として臥位から急に起き上がらないようにする。発汗が低下している例では、体温が高くなりやすいので、夏期には涼しい環境におくなど配慮する。起立性低血圧には昇圧剤、神経因性膀胱には薬物治療が有効なことも多い。自力排尿困難な場合にはカテーテルにより定期的に導尿も有効である。声帯外転麻痺による呼吸障害では夜間突然死をきたすので気管切開を行なう。ただし、気管切開しても中枢性無呼吸よる突然死のあることは知っておきたい。
【予後】
症状は緩徐に進行する。多系統萎縮症全体では発病後5年程度で車椅子、8年程度で臥床状態に至り、罹病期間は9年程度と云われている。突然死することがあり、特に睡眠時無呼吸など呼吸障害がある場合には注意が必要である。

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