WPW症候群
心房と心室とを直接に連絡する副伝導路(Kent束)が存在し、心室の早期興奮が生じる病態であり、房室回帰頻拍(AVRT)や心房細動(AF)を引き起こす。副伝導路の存在する部位により、A型、B型、C型の3種類に分けられる。
A型は副伝導路が左房と左室を結ぶもので、B型は右房と右室を結ぶもの、C型は中隔に存在するものである。
心電図の特徴としては、Δ波、PQ間隔短縮、wide QRSを認める。
合併症として房室回帰頻拍(AVRT)が80%、心房細動(AF)が20%で生じ、合併時には頻脈により動悸を自覚する。
AVRTの合併例では、副伝導路を介するリエントリー回路となり、心室から心房という向きに興奮が伝わるので、心電図所見としてQRS波の後ろに下向きのP波(逆行性P波)が見られる。また、WPW症候群特有の副伝導路を経由した早期興奮が起こらなくなるため、Δ波の消失がみられる。発作に対しての治療としては、迷走神経刺激法(※)やATPまたはCa拮抗薬の静注を行う。
VFの合併例では、心房の興奮が寝室に伝わるルートが二つあるため、副伝導路を主体に興奮が伝わると、QRS幅が広がり、心室頻拍のような心電図所見がみられる。(pseudo VT)副伝導路付着部周囲の心室筋の興奮の出現によるΔ波、心房の興奮が不規則なためにRR間隔の不整、心房の無秩序な電気的興奮による基線の細かな動揺がみられる。治療としては、発作に対してはNaチャネル遮断薬を用いる。なお、ジギタリス。Ca拮抗薬を用いるのは禁忌である。これらは正常伝導路を抑制し、副伝導路の伝導が逆に促進されることでますます頻脈となり、心室頻拍(VF)のリスクが高まるためである。WPW症候群に合併したAFは通常のAFと異なり、心房の興奮が副伝導路を介して非常に速く心室に伝わるため、高度の頻脈をきたす。また、VFへ移行して急死する可能性があるので危険である。
合併例以外で発作のない場合は経過観察が基本である。根治的治療としてはカテーテルアブレーションでリエントリー回路を遮断する。
(※迷走神経刺激法・・・迷走神経が刺激されると房室伝導が抑制される性質を利用した頻拍停止法である。吸気時に息をこらえることで、胸腔内圧が上昇し圧受容体が刺激されることで迷走神経が刺激されることを利用したValsalva法や、頸動脈を圧迫することによって頸動脈圧受容体を直接刺激する方法や、冷水に顔をつけることで三叉神経を刺激し、かつ息をこらえることで迷走神経を刺激する方法などがある。)