インフルエンザ

インフルエンザウイルスによる感染症で、かぜ症候群のうち最も重症となる病型。普通感冒に比べて急速に発症し、全身症状も強い。わが国では毎年冬から春先にかけて流行する。小児、高齢者では合併症により死亡することもある。
==臨床像==
・冬から春先(1~3月)にかけて発症する。
・発熱(38度以上)、悪寒、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、結膜充血といった全身症状が急速に出現し、続いて咳嗽、咽頭痛、鼻汁などの上気道症状もみられる。
(普通感冒では上気道症状が全身症状に先行するが、インフルエンザでは全身症状に続いて上気道症状がみられる)
・合併症として、高齢者では肺炎、小児ではインフルエンザ脳症があり、予後不良である。
肺炎には原発性のインフルエンザウイルス肺炎、二次性細菌性肺炎、両者の混合があり、このうち混合性肺炎が最も多い。原因となる主な菌は、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌などである。
また、インフルエンザ脳症のうち、脂肪変成を伴う肝障害と脳浮腫を特徴とするものを[[Reye症候群]]といい、進行が早く予後不良である。
その他の合併症として、[[筋炎]]や[[横紋筋融解症]]、[[心筋炎]]、[[心外膜炎]]などがある。
・臨床的に軽快しにもかかわらず倦怠感や意欲低下が長期に認められる場合もあり、インフエンザ後症候群と呼ばれる。
・通常は[[飛沫感染]]によるが、[[空気感染]]も報告されている。
==ウイルス学==
・インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科属する一本鎖[[RNAウイルス]]で、ウイルス粒子内の核蛋白複合体の違いから、A型、B型、C型に分類される。
・A型、B型表面には、ウイルスがヒト細胞に吸着、侵入する際に必要な[[赤血球合成酵素]](HA)と増殖したウイルスが細胞外に遊離するために必要な[[ノイラミニダーゼ]](NA)の二種類の糖蛋白がある。生体内では感染防御のため、HA、NAに対する[[中和抗体]]が産生される。
・C型は構造・性状がA型、B型とは異なり、発症しても軽症で、ほとんど流行しない。
・インフルエンザウイルスはRNAウイルスのため、複製ミスが起こりやすく、修復機構を持たない。そのため、変異を起こしやすい。変異には連続抗原変異と不連続抗原変異があり、不連続抗原が生じた場合、大流行(パンデミック)を招きうる。
連続抗原変異(マイナーモデルチェンジ)は、[[点突然変異]]により同一の亜型内でわずかに抗原性が変化する。季節性インフルエンザの1〜3年おきの小流行はこのために起こる。一方、不連続抗原変異(フルモデルチェンジ)では[[遺伝子再集合]]により抗原性の異なる別の亜型が誕生する。この場合、大多数のヒトが有効な抗体を持たないために大流行(パンデミック)が起こる。10〜40年おきに起こると言われている。
==疫学==
・インフルエンザの罹患率は乳児期から学童期までに高いが、死亡率は高齢者で高い。これは、高齢者がインフルエンザに感染すると心疾患肺疾患、腎疾患などの基礎疾患が悪化して、死に至ることも稀ではないためである。インフルエンザ流行時には明らかにこれらによる死亡率が高くなる。(超過死亡)
==検査方法==
・確定診断は抗原迅速診断キットによって行う。抗原迅速診断キットでは、鼻腔・咽頭拭い液を用いて、酵素免疫測定法により15〜25分程度で診断が可能である。A型、B型の鑑別も可能であるが、ウイルスの亜型までは鑑別できない。
==治療==
・発症後48時間以内に抗インフルエンザウイルス薬を投与する。
・[[ノイラミニダーゼ阻害薬]]が第一選択である。(A型、B型に有効)
[[ノイラミニダーゼ阻害薬]]にはNAの活性を阻害して、周囲の細胞への感染細胞からの新たな感染を防ぐ作用があり、リン酸オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル水和物(リレンザ)などがある。タミフルについては服用した後の異常行動(自殺企図など)による死亡例が報告されているため、厚生労働省は、因果関係は明確ではないとしながらも医療関係者に注意喚起を図り、10歳代若年者への投薬を控えるように呼びかけている。
・そのほかの治療薬として、インフルエンザA型がもつM2蛋白に作用し、ウイルスの増殖を阻害するM2プロトンチャネル阻害薬がある。A型にのみ有効な治療薬であり、塩酸アマンタジン(シンメトリル)などがあるが、塩酸アマンタジンは投薬により2,3日で20〜30%と高頻度に耐性ウイルスが出現する。塩酸アマンタジンは抗[[パーキンソン病]]薬としても使われる。
・なお、通常は約1週間で自然治癒する。
==予防==
・予防法として[[不活化ワクチン]]接種がある。完全な予防とはならないが、罹患率は下がり、罹患した場合も軽症となる。

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