コクシジオイデス症

概略

 真菌症でもコクシジオイデス症の病原性は極めて強く、4 類感染症全数把握疾患に指定された唯一の真菌症である。

疫学

コクシジオイデス症は米国西南部(カリフォルニア、アリゾナ、テキサス、ネバダ、ユタの諸州)、メキシコ西部、アルゼンチンのパンパ地域、ベネズエラのファルコン州の半乾燥地域の風土病で、渓谷熱、砂漠リューマチあるいは砂漠熱とも呼ばれている。これら半乾燥地帯の限られた地域の土壌中に原因真菌であるコクシジオイデス・イミチスが生息し、その分節型分生子は強風や土木工事などで空中に舞い上がり、これら分生子を吸入することにより肺に感染を起こす。毎年多数発生する患者の約0.5%は全身感染に波及し、その半数が致死的となる。病原性はペスト菌に相当する。本症が日本で発症した場合、菌の同定には特別な注意が必要である。本菌は菌糸状発育しているシャーレの蓋を不用意に開けただけで、分生子が空中に舞い上がり室内を汚染する。患者と直接接触する医師や看護師より、患者の検体から培養された真菌を取り扱う検査技師や研究者に二次感染の危険がある

臨床症状

① 原発性肺コクシジオイデス症
 ほとんど無症状であるが、約40%において、軽いカゼに似た症状を示す。汚染地域の住民のほとんどは短期間に自然治癒する。特徴的なこととして、約10%の患者(女性に多い)の下腿に紅斑を伴う結節(結節性紅斑 )が見られる。

② 原発性皮膚コクシジオイデス症
 極く稀に皮膚に初発病巣が生じる。刺傷あるいは外傷により感染し、発症する。潰瘍を形成し、花キャベツ状の腫瘤となる。

③ 良性残留性コクシジオイデス症
 症状がみられた原発性コクシジオイデス症の2~8%の患者の肺に、結核に似た空洞が形成される。空洞壁は薄く嚢腫状を呈し、液を貯留していることもある。炎症反応はほとんどない。病巣はそれ以上進行せず、感染の恐れもない。自覚症状はほとんどなく、X 線撮影によってのみ見いだされる。別名コクシジオイドーマと呼ばれることもある。

④ 播種性コクシジオイデス症
 別名コクシジオイデス肉芽腫。肺の初感染病巣が進行し、血行性に全身に散布する。原発性肺コクシジオイデス症の患者の約0.5%に発生し、そのうち約半数が死の転帰をとる。免疫不全の患者に起こることが多い。皮膚、皮下組織、骨、関節、肝、腎、およびリンパ組織が侵される。なお、急性の場合、髄膜炎を併発することが多い。


診断

①病理組織診断

染色は、PASやGMSが推奨され、組織内で、内生胞子を内蔵した球状体、および球状体から放出された内生胞子、各種発達段階にある球状体として観察される。病理学的特徴は肉芽腫性炎症と化膿性炎症の混じり合った像である。

②免疫学的診断
 免疫反応用抗原としてコクシジオイジンおよびスフェルリンが開発されている。これらの抗原は遅延型皮膚反応の検出に用いられる。
 本症の血清学的診断法としては、補体結合反応と二重拡散法の併用が優れている。二重拡散法の代わりに免疫電気泳動法を用いても良い。なお、中枢神経系のコクシジオイデス症の場合、血清の代わりに脳脊髄液中の抗体価が測定されている。

③PCR によるC. immitis 遺伝子の検出
 

治療・予防
 播種性コクシジオイデス症の治療は困難である。現在イミダゾール系の抗真菌剤(ケトコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾールなど)、および5‐フルオロシトシン(5‐FC)が実用に供されているが、古くから使用されているアムフォテリシンB が依然として唯一の確実な治療薬である。アムフォテリシンBの抗真菌作用は優れているが、副作用(肝、腎障害)が強く、使用に当たっては十分な注意が必要とされている。

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