クリミア・コンゴ出血熱

概略
クリミア・コンゴ出血熱(Crimean‐Congo Hemorrhagic Fever :CCHF)は、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスによる急性熱性疾患であり、エボラ出血熱、マールブルグ出血熱、ラッサ熱とともにウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever :VHF)4 疾患のひとつである。この疾患はダニ(Hyalomma属)が媒介する。上記4 疾患の中ではラッサ熱についで多く、アフリカ大陸から東欧、中近東、中央アジア諸国、中国西部にかけて広く分布している。アメリカ大陸には存在しない。人獣共通感染症(zoonosis)として最も重要な位置にある。臨床症状として発熱や、点状出血から大紫斑に至る多彩な出血像が特徴的である。近年はダニの体内での垂直伝播も知られ、今後疫学的にも最も注意していくべき感染症のひとつである。

疫学
 現在患者発生が知られている地域は、アルバニア、ブルガリア、ユーゴスラビアなどの東欧、中央アジア、ロシア、パキスタン、イラク、イラン、サウジアラビア、ドバイ、オマーンなどの中近東、中国(新疆ウイグル自治区)、アフリカ全域(南アフリカ、コンゴ、モーリタニア、ウガンダ、セネガルなど)である。このウイルスがダニや哺乳類から分離されている地域は、ギリシャ、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、ケニア、マダガスカル、エチオピア、ブルキナファソなどの国々である。
 CCHF ウイルスのヒトへの感染経路は、(1)感染マダニに咬まれたりダニをつぶしたりして感染ダニから感染する経路、(2)感染動物の血液や組織と接触して感染する経路、(3)感染者や患者の血液、血液の混入した排泄物、汚物などに接触して感染する経路がある。つまり、流行地の羊飼い、キャンパ-、農業従事者、獣医師等家畜などのダニと密接に接する人や、病院で患者に接する医療関係者、および介護にあたる家族などはCCHF ウイルスに感染するhigh risk グループと考えられる。院内感染はしばしば起こっている。

病原体
 ブニヤウイルス科(Bunyaviridae )のナイロウイルス属(genus Nairovirus )のメンバーである。粒子の径は90‐110nm の球形で、3分節(L‐RNA、M‐RNA、S‐RNA)からなる1本鎖RNA をもつエンベロープウイルスである。L‐RNA がL 蛋白を、M‐RNA が膜蛋白を、S‐ RNA が核蛋白を発現する。自然界では野生、家畜などの哺乳動物(ウシ、ヤギ、ヒツジなど)が自然宿主で、マダニ(Hyalomma )が媒介する。ウイルスは経卵巣伝搬経路で、成虫ダニから幼ダニへ伝搬されている。つまりダニ‐ ダニ間で維持されている。また、動物‐ ダニ間でも維持されている。現在27 種のマダニがこのウイルスを媒介することが知られている。感染マダニが渡り鳥により遠隔地へ運ばれる可能性も指摘されている(流行地の拡大)。

臨床症状
 潜伏期間は2~9 日である。症状は非特異的である。発生は突発的で、発熱、頭痛、筋肉痛、腰痛、関節痛がみられ、重症化すると種々の程度の出血がみられる(点状出血から大紫斑まで)。死亡例では肝腎不全と消化管出血が著明である。致命率は15 ~40%で、感染者の発症率は20%と推定されている。

病原診断
 正確な診断のために最も重要なことは、発症1 週間以内にウイルスを分離することである。RT‐PCR で血中からCCHF ウイルス遺伝子を検出する、抗原検出ELISA でウイルス抗原を検出する、などで診断を行う。血清学的にはIgG‐ELISA 、免疫蛍光法、補体結合反応などで有意の抗体上昇を確認することで診断できる。迅速診断には、IgM‐ 捕捉ELISA などによりIgM 抗体を検出するのも有用である。発症21日(3週)でCCHF ウイルスに対するIgG 抗体が陰性の場合、この疾患を否定できる。

治療・予防
 特異的治療法はない。治癒例では後遺症はみられない。抗RNA ウイルス薬であるリバビリンはCCHF ウイルスの増殖を抑制する。実際にリバビリンがCCHF患者に投与され、効果が認められたとする症例報告があるが、その効果は実証されていない。
ワクチンはない。感染予防には基本的バリア(ガウン、手袋、マスク等の装着)で十分である。

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