ラッサ熱

概略 
ラッサ熱は西アフリカ一帯にみられる急性ウイルス感染症であり、いわゆるウイルス性出血熱4疾患の一つである。“ラッサ”とは1969年に最初の患者が発生した村の名に由来する。ラッサウイルス(Lassa virus)はアレナウイルス科に属し、自然宿主は西アフリカ一帯に生息する野ネズミの一種であるマストミス(Mastomys natalensis)である。1類感染症に定められている。

疫学
 ラッサ熱は、ウイルスを保有するマストミスが生息するナイジェリアからシエラレオネ、ギニアに至るアフリカ一帯、および中央アフリカ共和国などで局地的流行状態にある。年間20~30 万人程の感染者があると推定されている。
ウイルスを保有するマストミスの尿や唾液中には多量のウイルスが排出されるが、マストミスは病気にはならず、ヒトへの感染はそれらとの接触(手、足の目に見えない傷)や咬まれることなどによる。ヒトからヒトへは血液、体液など(粘膜の接触を含む)で感染拡大がおこる。院内感染は基本的医療材料、すなわち手袋、ガウン、マスク、ゴーグル、長靴などの不足による ことが多い。また、注射器の不足により汚染注射器を繰り返し使用することも、エボラ出血熱と同様に感染拡大の主要原因となっている。1975 年までに ウイルスの性状解析がほぼ終わり、感 染経路が明らかにされてからは、ナイ ジェリア以外では院内感染はほとんど 起きてはいない。

病原体
 ラッサウイルスは1 本鎖RNA とエンベロープを持ち、アレナウイルス科に属する。このウイルスはアフリカにしか存在しないが、ヒトに病気を起こすアレナウイルス科のウイルスには他に、マチュポ(ボリビア出血熱)、フニン(アルゼンチン出血熱)、グアナリト(ベネズエラ出血熱)、サビア(ブラジル出血熱)の4種が知られており、いずれも南米に存在する。

臨床症状
 潜伏期間は7~18日で発症は突発的であるが、進行は徐々である。発熱、全身倦怠感を初発症状とし、朝夕に39 ~41 ℃の高熱を示す。続いて3~4日目に大関節痛、腰部痛があらわれる。頭痛、咳、咽頭痛が大部分の患者でみられる。さらに後胸骨痛、心窩部痛、嘔吐、下痢、腹部痛がよくみられる。重症化すると、顔面、頚部の浮腫、消化管粘膜の出血、脳症、胸膜炎、心のう炎、腹水、時にショックがみられる。いったん軽快し、2~3 カ月後に再燃し、心のう炎や腹水を生ずることもまれにある。また、重症例の約4分の1にみられる種々の程度の不可逆性の知覚神経性ろうが最近注目されている。妊婦の重症化はよくみられ、胎内死亡、流早産をおこす。 検査所見上、脱水によるBUN 値の上昇を除けば、生化学検査で酵素(AST、ALT、CPKなど)などの値に特徴的な所見はない。


病原診断
基本的には培養細胞を用いて咽頭ぬぐい液、血液、尿などからウイルスを分離することである。迅速診断法としては、PCR 法によりウイルスの遺伝子断片を検出する。急性期には抗原検出も可能であるが、診断感度は劣る。抗体測定にはELISA 、免疫蛍光法が用いられる。発熱後追跡するとIgM 抗体は30%程度にしか出現せず、初めからIgG 抗体が出てくることが多い。

治療・予防
 感染予防ワクチンはない。治療にはリバビリンが著効を示す。発症6日以内に投与を開始すると、本来70 ~80%の致死率を数%に激減させうる。患者との濃厚接触がある場合、あるいは実験中の病原体や感染材料への曝露がある場合には、経口投与による発症予防効果も期待できる。空気感染しないので、基本的な感染防御策で十分対応しうる。

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