ロッキー山紅斑熱
概略
ロッキー山紅斑熱はロッキー山紅斑熱リケッチアによって引き起こされ,マダニによって伝播する。症状は高熱,咳および発疹である。
疫学
ロッキー山紅斑熱(RMSF)は西半球に限られている。最初にロッキー山脈諸州で認められたが,実際には米国全土,特に大西洋沿岸諸州および中南米各地で発生する。人における感染は,主として5月から9月,すなわちダニ成虫が活動性で,ダニの蔓延する地域に人々が最も多くなりそうな季節に発生する。米国南部諸州では,年間を通して散発例を認める。発生率は15歳未満の小児や,仕事やレクリエーションでダニの蔓延する地域を頻繁に訪れる人に多い。斑点熱リケッチアは固い殻を有するダニ(マダニ科)に寄生し,寄生されたメスは子孫に菌を伝播する。これらのダニは自然宿主である。
病態生理
特徴的な病理学的病変の発現部位は小血管である。傷害された内皮細胞内でリケッチアが増殖し,血栓が血管を塞ぎ,皮膚,皮下組織,中枢神経系,肺,心臓,腎臓,肝臓,脾臓に脈管炎を起こしうる。重症患者においては,しばしば播種性血管内凝固症候群が起こる。
症状と徴候
患者の約70%においてダニの刺咬傷がみられる。潜伏期間は平均7日間であるが3〜12日間と様々であり,潜伏期間が短いほど感染は重度である。発症は突然で,重度の頭痛,悪寒,虚脱,筋肉痛を来す。熱は数日以内に39.5〜40°Cに達し,高熱が続く(重症例では15〜20日間)が,朝は軽快することがある。発熱1〜6日目に,ほとんどの患者で手首,かかと,手掌,足底,前腕に発疹が生じ,急速に首,顔面,腋窩,殿部,体幹に広がる。発疹は初期には斑状でピンク色を呈し,やがて斑丘疹状および濃色になる。病変部は4日ほどで点状出血となり,融合して大きな出血部位を形成した後に潰瘍化する。神経学的症状としては,頭痛,不隠,不眠,せん妄,昏睡などがあり,全て脳炎の徴候である。重症例では血圧低下が発現する。肝腫大が発現しうるが,黄疸はまれである。悪心および嘔吐がよくみられる。局所性肺炎が起こりうる。未治療患者は肺炎,組織壊死,循環不全を起こすことがあり,ときに脳や心臓の障害を伴う。激症例では,時おり心停止による急死が起こる。
診断と治療
西半球のどこであれ,森の中や近隣に住み,説明のつかない発熱,頭痛,虚脱を有する全ての重篤患者は,ダニに接触した経緯の有無に関わりなくRMSFを疑うべきである。リケッチア性疾患および類似する疾患は,主として髄膜炎菌血症,麻疹,風疹などの他の急性感染症と鑑別しなければならない。シラミまたはノミとの接触,ダニ刺咬傷,または既知の流行地域における滞在などの経緯は役立つが,そのような経緯はしばしば欠落する。臨床像が疾患の鑑別に役立つことがある。
早期に抗生物質投与を開始することにより,死亡率は約20%から7%へと顕著に低下し,大部分の合併症を予防できる。既知の流行地域においてダニによる刺咬傷が発生したが臨床徴候を欠く場合は,抗生物質を直ちに投与してはならない。もし発熱,頭痛,倦怠が発疹を伴って,または伴わなずに発生したなら,直ちに抗生物質投与を開始するべきである。有効なワクチンはない。診断検査は時間がかかり,低感度の可能性があることから,顕著な機能低下,死亡および回復遅延を予防するために一般に推定に基づいて抗生物質投与を開始する。テトラサイクリン系は第1選択治療である。経口薬の服用が不可能なほどの重症患者には静注製剤を用いる。クロラムフェニコールが第2選択治療である。いずれの薬剤もリケッチアに対して静菌性であるが殺菌性はない。シプロフロキサシンおよび他のフルオロキノロン系は特定のリケッチアに対して有効であるが,広範な臨床経験を欠く。重度のRMSFまたは流行性発疹チフス患者は後期に毛細血管の透過性が著しく上昇しうることから,静脈内輸液は肺水腫および脳浮腫の悪化を回避しながら血圧を維持するように慎重に行うべきである。播種性血管内凝固症候群を発現している患者ではヘパリンは推奨されない。