心室中隔欠損症(ventricular septal defect: VSD)
≪疫学・概念≫
先天性心疾患は出生児の1%ほどが合併する。心室中隔欠損とは心室中隔に欠損校が存在する奇形である。心室中隔は漏斗部中隔、膜様部中隔、肉柱性中隔、流入路中隔の4部分に分けられ、これらの中隔や境界の欠損で心室中隔欠損は起こる。4つのうちでは膜様部欠損が最多である。一疾患単位としては先天性心疾患の中で最も頻度が高く、出生時10000人に対し約60人の割合である。
≪血行動態≫
心室中隔の欠損度合と肺血管抵抗が病状の重さを決める。左室→右室の短絡により肺動脈、肺、肺静脈、左房、左室の血流が増加する。中等症では肺動脈、左房、左室に容量負荷がかかるが、肺高血圧となることは少ない。重症では、肺高血圧を呈し、右室に圧負荷がかかり右→左短絡となってEisenmenger症候群へと移行する。肺血流増加による肺コンプライアンスの低下、左房圧上昇による肺うっ血、拡大した左房、肺動脈による気道圧迫により呼吸障害がおこる。
≪症状≫
自然閉鎖が約20%に認められる。軽症では心雑音を認めるものの、血行動態はほとんど正常であり無症状である。中等症では、呼吸障害による哺乳障害と慢性的な心臓の高拍出状態によるエネルギー消費量の増大により体重増加が抑制され、成長障害を引き起こす。左室への容量負荷により左心不全へと進行する。また、肺うっ血により頻回の気道感染を引き起こし、運動能低下、易疲労感もみられる。重症では肺高血圧の程度が大きいため左室圧=右室圧となり、圧較差が小さくなることから短絡による心雑音は中等症に比して減少している。中等症同様、うっ血性心不全、Eisenmenger症候群へと進行する。
≪所見・検査≫
聴診では、Ⅰ音と同時に始まる全収縮期逆流性雑音を聴取する。最強点は漏斗部型で、第2,3肋間胸骨左縁に、膜様部型では第4肋間胸骨左縁に、肉柱性中隔型では下部胸骨左縁から心尖部の間にある。触診で胸壁上に振戦をふれることもある。
胸部X線では、短絡量の増加に従い、左第2弓、左第3弓、左第4弓の突出がみられる。Eisenmenger化すると、心拡大は目立たなくなり、左第2弓の突出が顕著になる。
心電図では短絡量の増加とともに左室肥大所見が現れる。肺高血圧が進行すると右室肥大所見も見られる。
心エコーでは、欠損孔が直接確認され、カラ―ドップラーで短絡血流がみられる。短絡血流速度から、左室右室圧格差を推定する。
心カテーテル検査では手術適応判断のためにQp/Qs(肺血流体血流比)が計算される。
≪治療≫
軽症では自然閉鎖を期待し、経過観察にとどめ、心不全症状みられる際はジギタリス、利尿薬を投与する。Qp/Qs>2.0で手術適応となるが、Eisenmenger化してしまった場合は手術適応外である。感染性心内膜炎合併があることから、扁桃摘出術や抜歯術を施行する際には予防的に抗菌薬投与を行う。
≪合併症≫
心室中隔には刺激伝導系の繊維が存在するため、欠損孔がそれらを損傷することにより房室ブロックを引き起こす。
また、欠損孔周囲では血流の乱れが存在するため細菌が定着、増殖しやすく感染性心内膜炎を発症しやすい。菌血症を起しうる施術時には抗菌薬の投与が必須である。