多発性骨髄腫
骨髄において形質細胞が単クローン性に増殖するリンパ系腫瘍(B細胞腫瘍)、増殖した形質細胞(骨髄腫細胞)や、そこから賛成される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)が骨病変、腎機能障害、M蛋白血症など、様々な病態や症状を引き起こす。
正常では、造血幹細胞がB細胞へ分化するとB細胞はリンパ節へと移動し、抗原の刺激を受けながら成熟する。一部のB細胞は骨髄へ戻り分化して成熟形質細胞となる。形質細胞はそれぞれ1種類の免疫グロブリンを産生するので、末梢血には様々な免疫グロブリンが現れる。しかし、多発性骨髄腫の場合、骨髄へ戻って形質細胞となったものの一部が腫瘍化し、骨髄腫細胞となる。骨髄腫細胞は分化能を失い、単クローン性に増殖し、1種類の異常免疫グロブリンを大量に産生する。これにより、末梢血にM蛋白の割合が増大し、M蛋白血症となる。
骨髄では、MayGiemsa染色で細胞質が青く染まり、核周囲明庭を持つ形質細胞の増殖がみられる。形態学的に異型性のある形質細胞がみられることもある。赤芽球や顆粒球系の血球数は減少している。全体としては低形成性骨髄である。
病気分類にはInternational Staging Systemが使われる。血中アルブミンとβ2ミクログロブリンの値で決定される。アルブミンが低値、β2ミクログロブリンが高値であるほど予後不良となる。(StageⅠ→アルブミン3.5以上、β2ミクログロブリン3.5以下/StageⅡ→アルブミン3.5以下、β2ミクログロブリン5.5以下/StageⅢ→アルブミン3.5以下、β2ミクログロブリン5.5以上)
多発性骨髄腫の症状として以下の3つが特徴的である。
①
骨融解→骨髄腫細胞から産生される破骨細胞活性化因子(OAF)により、破骨細胞が活性化され、骨融解などの骨病変を引き起こす。骨のX線所見でpunched out lesion(骨打ち抜き像)が見られることが多い。
②
M蛋白血症→多量のM蛋白によって総蛋白量が上昇し、血液の捻調度がましてっ可燃調度症候群を呈する。M蛋白には液性免疫としての働きはないので、易感染性となる。またBence-Jones蛋白(※)は腎機能障害を引き起こしやすい。
③
骨髄機能低下→骨髄で腫瘍細胞が増殖することで正常な血球の産生が抑制され、貧血、白血球減少を示す。時に血小板減少も起こる。
そのほかの合併症としては高Ca血症、腎機能障害、貧血、骨病変による圧迫骨折から生じる腰背部痛がある。
多発性骨髄腫は骨髄腫細胞が単クローン性に産生する異常免疫グロブリンによってIgG型、IgA型、IgD型、IgE型、Bence-Jones型の5つに分類される。腫瘍がM蛋白を産生する疾患には原発性マクログロブリン血症もあるが、これはM蛋白を産生するのがリンパ形質細胞様細胞であること、産生されるM蛋白がIgMであること、骨病変をきたしにくいなど、多発性骨髄腫とは異なる。M蛋白がどの型なのか調べるのには免疫電気泳動を行う。
治療としては化学療法(多剤併用療法)でVAD療法(ビンクリスチン・アドリアマイシン・デキサメタゾン)、MP療法(メルファラン、プレドニゾロン)を行う。造血幹細胞を自家移植する。支持療法として高Ca血症、骨痛に対して、ビスホスホネート、生食輸液+ループ利尿薬、鎮痛薬、放射線照射を行う。サイアザイド系利尿薬は禁忌である。貧血に対してEPO投与、輸血を行う。可稔調度症候群に対して血漿交換療法を行う。
※Bence-Jones蛋白とは
形質細胞から分泌される正常な免疫グロブリンは、重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)が2つずつ結合した構造からなるが、Bence-Jones蛋白は単独で存在するL鎖であり、分子が小さい。そのため尿中に容易に排出される。Bence-Jones蛋白のみが産生される多発性骨髄腫をBence-Jones型と呼ぶ。ただし、Bence-Jones型以外の多発性骨髄腫でも、Bence-Jones蛋白が検出されることはある。
Bence-Jones蛋白は近位尿細管で再吸収され、尿細管上皮に沈着し、尿細管の機能を傷害する。これにより骨髄腫腎になる。骨髄腫腎とは尿細管上皮細胞の変性壊死や、尿細管腔内の円柱形性が見られる。また、Bence-Jones蛋白はアミロイドの原料となる。アミロイドは濾過されず、糸球体や全身の臓器に沈着してアミロイドーシスとなり、様々な症状を引き起こす。糸球体に沈着するとネフローゼ症候群を引き起こし、アミロイド腎となり腎機能障害が生じる。