再生歯科

歯科治療においてさまざまな人工材料を多用してきたが、ここで紹介するティッシュエンジニアリング材料は、従来のレジン、金属とはまったく異なるコンセプトから生まれたものである。すなわち、無生物の歯科材料ではなく、細胞とマトリックスと生理活性物質で生きた歯あるいは歯質を再生させるのである。

象牙質再生

象牙質にはエナメル質と同様に血管は存在しない。 しかしエナメル質と異なる点は、象牙芽細胞が大人の一生をとおして生き続け、持続的に象牙質をつくり続けるという点である。つまり、うまくすれば象牙質は再生する可能性があるということになる。もしこの技術が開発されたら、窩洞形成後の充填材料として、生活歯髄の覆髄材料として大きな効果を発揮し、商業ベースに乗ることも考えられる。1つの可能性は、象牙質から分離されたBMP(デンチンBMP、DBMP)の応用である。BMPは骨マトリックスだけではなく、象牙質マトリックスにも存在する。窩洞に充填されたDBMPは、歯髄表面に配列する象牙芽細胞を刺激して象牙質を産生する。

デンチンBMPを用いた象牙質再生

さらに、歯質そのものをつくるために、象牙芽細胞とマトリックスの複合体が考えられる。細胞への血液供給は歯髄への穿孔部から得る。つまり、二次象牙質を歯髄側ではなく、窩洞側に形成させると考えてもらえばよい。窩洞に充填されるのは、金属や合成樹脂ではなく、細胞とマトリックスであり、数か月後には窩洞が象牙質で満たされることになる。


歯胚再生

歯そのものを再生させることができるか、ということが歯科医師の最大の関心事であろう。結論からいうと、“歯胚再生は可能"である。現在の再生医学の延長線上には、歯胚の再生は確実に存在する。脳や心臓に比べればむしろやさしい方といってもよいかもしれない。ただ、これまで述べてきた象牙質、骨、粘膜といった単一組織の再生ではなく、歯は歯髄、象牙質、エナメル質、セメント質などが複合したひとつの器官、臓器なので、狭義の再生医学の技術レベルでは再生は難しい。ES細胞の助けを借りなければならない。先に述べたように、ES細胞を使えば人体のすべての組織、臓器をつくることができる。霊長類ではすでに実験に成功し、心臓、腎臓はもちろん、毛嚢の再生も確認されている。また、ES細胞の技術とクローン技術を組み合わせれば、自分の遺伝情報をもったES細胞をつくることができる。今後、ES細胞の分化調整機構がわかり、目的の臓器形成が確実にできることができれば、顎骨に移植されたES細胞から、やがて歯胚の再生もできるようになるだろう。

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