常位胎盤早期剥離

正常位置(子宮体部)に付着している胎盤が、妊娠中または分娩経過中の胎児娩出前に子宮壁から剥離した状態のことを言う。発生頻度は全分娩の0.3〜0.9%である。母児双方に重篤な障害をもたらす危険性が高い。
様々な発症誘因により、血行不良になることで、脱落膜が壊死し、壊死した脱落膜が剥がれ、その際に出血が起こる。出血によりできた血腫がさらに、周囲の胎盤を剥がし、これによって血腫はいっそう増大していく。母体側には胎盤組織内の組織因子が母体血中に流入し、産科DICを起こし、重症例では死に至ることもある。胎児側には、胎盤からの酸素供給が低下もしくは遮断され胎児機能不全におちいり、重症例では60〜80%が周産期死亡、神経学的後遺症も高率に残る。発症の直接的な原因は解明されておらず発症の予知、予防は困難である。発症誘因としては、妊娠高血圧症候群、高血圧性疾患合併妊娠、常位胎盤早期剥離の既往、早産、切迫早産、絨毛膜羊膜炎、前期破水、胎児奇形、重症IUGR、急激な子宮内圧の減少、子宮筋腫、喫煙、薬物などが挙げられている。これらの誘因がなくても突然発症することもある。本症の3分の1〜2分の1は、妊娠高血圧症候群を合併している。臨床的な症状としては、外出血量があまりないのに、急性貧血(出血性ショック→顔面蒼白・冷感、産科DIC→乏尿・無尿・出血症状)
になったり、止血のため子宮が異常に収縮(腹壁の板状硬、下腹部の激痛、剥離面に一致した圧痛)したり、子宮啌へ血液が流出(子宮底の上昇、血性羊水、外出血)したり、胎児の低酸素血症(胎児機能不全、胎児死亡→胎動を触知できない、胎児心音が認められない)がみられたりする。常位胎盤早期剥離の病態は、以下の通りである。何らかの原因により、子宮から胎盤への血管に攣縮、血栓形成が起こることで脱落膜が血行不良に陥り壊死する。すると、脱落膜が子宮から剥離し、剥離面から出血がおこる。これにより、胎盤の組織因子(組織トロンボプラスチン)が母体循環に流入し、凝固系の活性化が起こる。全身のいたるところに微小血栓が生じ、DICを発症する。その結果、腎不全などの臓器症状が出現し、進行すれば多臓器不全に陥る。同時に線溶活性も高度に亢進するため、著しい出血症状が見られる。また、子宮内圧が増大するため、強い下腹部痛と持続性子宮収縮(板状硬)が起こる。胎児機能不全や新生児仮死、胎児死亡を引き起こすこともある。また、子宮壁へ血液浸潤が起こると、子宮溢血になる。出血量が増大するとショック症状を呈することもある。
症状からPage分類によって重症度を判定する。臨床的には、軽症の症例を見逃さず、的確に診断、対処できることが重要である。軽症例の発症初期は、本症に典型的な急激な下腹部痛をきたすことは少なく、少量の性器出血、軽度の腹部膨満感や下腹部痛を訴えることが多い。特に妊娠高血圧症候群などのハイリスク因子を持つ例では注意を要する。
超音波検査では、発症初期は胎盤後血腫と胎盤実質の区別は、困難で、胎盤の肥厚、巨大化として観察されることが多い。胎盤の所見は、剥離が起こってから時間が経過すると、血腫部分のエコー輝度が胎盤と区別しやすくなる。胎児心拍数陣痛図の方が超音波検査よらも軽症例や発症初期は異常が認められやすい。胎児は低酸素状態を反映した胎児機能不全を、示唆する徴候(頻脈や遅発一過性徐脈、変動一過性徐脈など)を呈することが多い。軽度の子宮収縮を認めることが多く、CTG上ではさざ波のような波形を描く。子宮収縮が頻回に出現している場合や、子宮収縮が、ない場合でも、子宮内圧が上昇していることが多い。妊娠中さ20週以降で臨床的に問題となる性器出血には、常位胎盤早期剥離と前置胎盤がある。臨床症状や経膣超音波検査で鑑別する。
治療としては、常位胎盤早期剥離の診断がついた時点で胎児が生存していれば、分娩適応となる。子宮口全開大の場合、経腟分娩(適応があれば吸引または鉗子分娩)を行う。子宮口全開大前の場合、帝王切開を行う。胎児死亡の場合、母体の全身状態や子宮口の状態に応じて分娩様式を決定する。DIC、ショックがある場合は先にこれらの治療を、行う。分娩終了後、子宮収縮不全で出血がコントロールできない場合は、子宮摘出を行う。

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