三叉神経は広汎に顔面・口腔の知覚を司る。この各枝の支配領域に発現する発作性・電撃性の疼痛が三叉神経痛で、真性と症候性とに分ける。
真性三叉神経痛の原因は不明である。血管運動神経性の血行障害、伴走静脈うっ血、局所貧血と酸素不足などが考えられているが、中でも動脈硬化を生じた血管による神経根圧迫が原因であることが有力であると考えられている。ほかにも、中枢神経障害、末梢神経炎、ウイルス感染も考えられている。誘因としてはリウマチ、糖尿病、痛風、各種中毒、動脈硬化症、歯性病変、副鼻腔炎、インフルエンザ、寒冷暴露、過労などで本症が発病することがある。年齢は50歳代、60歳代が多く、40歳代、30歳代がそれに次ぐ。性別では女性に55%とやや多い。罹患は片側性が圧倒的で、両側性は稀、部位別では第3枝、第2枝の順に多く、各枝の合併例もあるが、第1枝のみに発症することは極めて稀である。前駆症状はなく発作性に、三叉神経抹消枝支配領域に電撃性疼痛が起こる。疼痛は30秒ほど持続、自然に消失する。疼痛の強い患者では顔面筋のけいれんを伴うことがある。疼痛発作の間隔は症状進行とともに短くなる、皮膚あるいは粘膜への軽い刺激が発作を誘発する刺激となる場合が多い。これをトリガー(疼痛誘発刺激)という。洗面、洗口も疼痛誘発刺激として頻度が高く、患者は極めて慎重に行動する。その他、咀嚼、会話、風邪、精神的緊張、運動後などに疼痛発作の発現が見られる。本症では顔面に機能的形態的変化を認めることは少なく、無痛期には自覚的所見ならびに外観上の所見を欠く。
診断には以下の5項目が必要とされる。
疼痛は発作性で、激痛が数秒から数分続く。無痛期にはまったく痛みがないか、あっても鈍い痛みである。
疼痛発作は顔に対する何らかの刺激で誘発される。
疼痛は三叉神経の支配領域に限局している。
疼痛は必ず顔面の正中線より片側hげ限局されており、他側へ及ぶことはない。
皮膚の感覚テストにより触覚や痛覚の低下や脱失はない。
治療としては、まず薬物療法がある。鎮痙剤が有効である、1日量200~400mgを標準とし、罹病期間、症状の軽重により用量・分服方法を工夫してできるだけ少量投薬で維持する。ATP製剤、ビタミンB1、B12、精神安定剤、解熱鎮痛剤などの併用もある程度の効果が期待できる。
また、神経ブロックという方法もある。末梢枝ブロックと半月神経節(三叉神経節、ガッセル神経節)ブロックがある。最初に局所麻酔剤を使用。目的とする効果を表すことを確認する。以降必要により神経破壊剤ブロックを行う、神経破壊剤として、純アルコール、90~70%アルコール、石炭酸加アルコールなどが用いられる。ブロックを行う部位は第1枝(眼窩上神経ブロック、滑車上神経ブロック)、第2枝(眼窩下神経ブロック、上顎神経ブロック)、第3枝(オトガイ神経ブロック、下顎神経ブロック)、神経幹(半月神経節ブロック)が代表的なもので、実施は疼痛領域を含み、できるだけ末梢側の神経枝から行うべきである。半月神経節は合併症を起こした場合、失明、角膜炎、眼窩下垂、動眼筋麻痺、血栓形成など重篤な症状を呈することがあり、施行は慎重に行わねばならない。
または、手術療法で神経切除術、神経捻徐術があるが、後遺症および再発があるので、最近は行われない。
数回のブロックと投薬で完治するものもあるが、概ね難治で50%以上に疼痛の再燃をみる。再燃は季節的要因が関与し、寒冷な季節に移るころに発現しやすい。経年的に症状が進行する例も多い。