筋ジストロフィー
慢性・進行性に経過し、骨格筋の変性・壊死と筋力低下を主張とする遺伝病である。Duchenne型、Becker型、肢体型、顔面肩甲下上腕型などがある。もっとも頻度が高いのはDuchenne型であり、最も重症である。
⑴ Duchenne型筋ジストロフィー
ジストロフィンという筋細胞膜の維持に重要な役割をしている蛋白質が先天的に欠損し、筋細胞膜の保持、強化、情報伝達に異常をきたしている。伴性劣性遺伝をするため、男子にのみ発症する。健常者よりも歩行開始が遅く、3〜6歳で動揺性歩行(※1)などの歩行異常が見られるようになる。その後、Gowers徴候(※2)、腓腹筋の仮性肥大が見られるようになる。進行が速く、近位筋の筋力低下・萎縮から始まり、最終的には呼吸筋や心筋が障害され呼吸不全や心不全を合併し、20歳までに死亡してしまうことがほとんどである。
(※1動揺性歩行;中臀筋が障害されるため、骨盤を水平に保つことができず、挙上した足の側の骨盤が下がり、これを補うため、立っている方の足に体幹を倒すように歩く、という歩き方のこと。)
(※2 Gowers徴候;臥位から立位へ移動する際に、手を膝で押さえながら体を起こしていくという特異な動作のこと。下肢帯の筋力低下によって生じる。)
血液検査では筋の破壊を反映して血清CKやアルドラーぜの上昇が見られる。針筋電図で筋原性変化(低振幅、短持続時間)が認められる。また、筋生検で坑ジストロフィン抗体を用いた免疫染色を行ってジストロフィンの欠損と、遺伝子診断でジストロフィン遺伝子の異常を証明することで確定診断となる。
症例によってはステロイド治療が有効なことがあるが、確立した治療法はない。
⑵ Becker型
Duchenne型の軽症型で、同じく伴性劣性遺伝である。ジストロフィンは発現しているが、不完全で量も不足している。発症、進行ともに遅く、60歳を過ぎても歩行可能な患者もいる。筋力低下が目立たず、心筋異常(拡張型心筋症など)が先行する症例もある。