Fanconi貧血

DNA修復欠損を基盤とした染色体の脆弱性を背景に、1) 進行性汎血球減少、2)骨髄異形成症候群や白血病への移行、3)身体奇形、4)固形がんの合併を特徴とする血液疾患である。
  
年間の発症数は5〜10人で、出生100万人あたり5人前後ある。保因者の頻度は200〜300 人に 1 人と推定される。
 
遺伝的に異なる多数のグループが含まれており、現時点において18群 (A, B, C, D1, D2, E, F, G, I, J, L, M, N, O, P, Q, S, T)の原因遺伝子が同定されているが、まだみつかっていない遺伝子もあると推測される。DNA二重鎖架橋の修復に働く分子経路 (FA経路)を形成し、どれか1つの遺伝子産物の障害があると、FA経路の機能不全のためFAとして発症する。FA遺伝子の中には、FANCD1, FANCJ, FANCN,FANCSのようにそれぞれ家族性乳がん遺伝子として同定されていたBRCA2, BRIP1, PALB2, BRCA1と同一であることが判明したものを含む。すなわち、ヘテロ接合体ではFAを発症しないが、家族性乳がんのリスクを持つ。遺伝形式はB群のみX連鎖劣性遺伝であり、ほかは常染色体劣性遺伝形式を示す。日本人における解析では18の遺伝子群の中で、多くはA、G群に含まれ、A群の頻度が最も高い。
 
臨床像としては、
1)汎血球減少
2)皮膚の色素沈着
3)身体奇形
4)低身長
5)性腺機能不全  
をともなうが、その表現型は多様で、血球減少のみの場合もある。低身長、色黒の肌やカフェオレ斑のような皮膚の色素沈着、上肢の母指低形成、多指症、橈骨欠損などの外表異常だけでなく、片腎、消化管や先天性心疾患などの内臓合併症も多い。血球減少は6歳ころからみられ、再生不良性貧血と診断されるが、生下時あるいは成人になってから発症することもある。骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への移行は思春期から成人期にかけて多く、20歳を超えると頭頸部扁平上皮がん、食道がん、膣扁平上皮がん、肝細胞がんなどがみられる。汎血球減少が先行することなく、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病あるいは固形がんを初発症状とすることもある。FANCD1 やFANCNの異常では幼小児期にウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、髄芽腫をはじめとした脳腫瘍や急性骨髄性白血病を発症することが多く、予後不良である。
 
FAは幹細胞レベルでの障害に基づく造血障害のため、免疫抑制療法の効果は期待できず、現時点では、造血幹細胞移植のみが唯一治癒を期待できる治療法である。

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