僧帽弁閉鎖不全症(MR)
僧房弁の閉鎖不全により、収縮期に左室から左房に向かって血液が逆流する状態である。心臓弁膜症全体の約20~25%を占める。
原因として、弁膜の器質的病変、弁支持組織の病変、相対的な閉鎖不全の3つに大きく分けられる。
① 弁膜の器質的病変
・溶連菌感染後のリウマチ熱による病変(これまでは一番多い原因であったが、近年では激減している。)
・感染性心内膜炎
・心内膜床欠損症(ECD)、房室中隔欠損症(AVSD)
・Marfan症候群
・外傷性(胸部打撲)
② 弁支持組織の病変
・下壁梗塞・感染性心内膜炎・外傷などによる腱索・乳頭筋の断裂(急激に発症することが多く、放置すると予後は極めて悪くなる。)
・虚血性心疾患による乳頭筋機能不全
・僧房弁逸脱症(MVP)
③ 相対的閉鎖不全(弁輪の拡大・左室収縮異常など)
・心筋症
・大動脈閉鎖不全症(AR)
・高血圧・動脈硬化(現在はこれが最も多い原因である。)
・先天性心疾患など
収縮期に左室から左房へと血液が逆流するこpとにより、心拍出量が減少し、左房や左室に容量負荷がかかり、左房や左室の拡大につながる。左房の拡大の結果、肺静脈が圧迫され、発作性心房細動が起こる。また、肺うっ血になることにより肺高血圧に陥り、右心不全や右室拡大・肥大や右房拡大、二次性の三尖弁閉鎖不全症になることもある。
症状としては、労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸、肝腫大、下腿浮腫、動悸などが生じる。
聴診でI音が低下し、Ⅲ音が聴診されるようになる。また、心尖部で全収縮期雑音が聞かれる。心電図で、心房細動(AF)、左室肥大、左房負荷がみられる。胸部X線像で、左室・左房拡大所見がみられる。確定診断としては、カラードプラー心エコーで左室から左房への逆流を確認し、心カテーテル室で左房波の心室化(v波の増高)、左室造影で、左室から左房への逆流を確認することである。
内科的な治療としては、心不全徴候に対して行う。外科的治療としては、僧房弁形成術、人工弁置換術、弁輪縫縮術を行う。急性心筋梗塞(AMI)などによる僧房弁乳頭筋断裂は、緊急手術の適応である。