熱傷
≪病態≫
熱の作用で、細胞レベルでたんぱく質が変性することにより生物学的活性が失われ、膜脂質の流動性が高まり、膜内の酵素活性が失われ、細胞機能が障害される。
熱の直接作用により、表皮や真皮に障害が起こり、真皮内血管に血栓が形成され、毛細血管内圧の上昇と局所のうっ血が起こり、組織に浮腫が生じる。
一方、熱の間接作用として、ヒスタミンやタンパク分解酵素、ブラジキニン、プロスタグランジン、サイトカイン、NOx、活性酸素などの種々の血管透過性亢進物質が遊離し、局所で血管透過性が亢進し、血漿成分が血管外へ漏出することにより血管周囲の浮腫が顕著となる。さらに、広範囲熱傷では、血管透過性亢進に働く化学伝達物質が局所のみならず全身にあふれ出し、全身の血管にも作用して、血管透過性が亢進する。
≪経過≫
①急性期
ショック期(受傷後48時間まで)
・一次性ショック(受傷後数時間以内)
血管神経反射による血行障害が原因となる。
・二次性ショック(受傷後数時間~48時間まで)
血管透過性亢進により体液が大量に喪失し、タンパク質が減少する。循環動態の急激な変化や、電解質の不均衡、血液濃縮、溶血、さらに気道熱傷による呼吸障害が起きる。各臓器への血流障害、酸素不足により組織障害も起こる。
②ショック離脱期あるいは利尿期(受傷後2~7日)
血管透過性の亢進がおさまり、漏出した水分が血管内に戻り、肺水腫による呼吸障害、循環血流の増大に伴う心不全を生じる。
③感染期(受傷後7日~4週)
重症では免疫力が低下し、易感染性となる。創感染やカテーテルからの静脈炎や尿路感染症、さらに気道熱傷合併例では肺炎も生じやすい。これらから敗血症になると多臓器不全に陥ることが多い。感染巣となる壊死組織を積極的に除去する。
④回復期(受傷後4~6週以内)
植皮術を行い創閉鎖の目途がたてば、拘縮や瘢痕の肥厚化を予防、抑制するとともに、機能面や整容面、精神面を考慮した社会復帰に向けたリハビリテーションが必要になる。
熱傷分類
≪重症度≫
組織障害の深さによってⅠ~Ⅲ度(Ⅳ度)に分けられる。
表皮層と真皮乳頭層までの障害であるが、組織学的には表皮内にとどまり基底層は障害を受けていない。臨床的に毛細血管の拡張が起こり、紅斑あるいはピンク色となり、軽度の疼痛を有するが、数日で一過性に消失する。軽度の色素沈着を残すこともあるが、瘢痕を残すことはない。
表皮および真皮の障害で、表皮‐真皮の接合部分が障害されて水疱を形成する。Ⅱ度熱傷は組織障害が浅く、真皮浅層にとどまっている浅達性Ⅱ度熱傷(真皮浅層熱傷:superficial dermal burn /SDB)と、組織障害が真皮深層にまで及んでいる深達性Ⅱ度熱傷(真皮深層熱傷:deep dermal burn /DDB)に分けられる。初期の臨床像は両者とも紅斑を伴う水疱、あるいは水疱蓋が欠損したびらんとなる。SDBでは疼痛と水疱底に後半を伴っているが、圧迫すると紅斑は消失する。一方、DDBでは水疱底を圧迫しても紅斑は消失しない紫斑であることが多く、真皮内の神経末端が障害されることにより知覚鈍麻も伴う。
SDBとDDBの鑑別には水疱底に針を刺し疼痛の有無を確認するピン痛覚検査(pin prick test)を行う。
SDBでは、熱傷創深部に残存する毛包や汗腺、脂腺の表皮細胞から上皮化が起こり、受賞後10~15日程度で瘢痕を残さずに治癒し、DDBでは、3~4週間をかけて瘢痕治癒する。
Ⅲ度熱傷(皮下熱傷:deep burn/DB, full-thickness burn)
真皮全層の組織障害で、皮下組織も一部障害され壊死に陥ることが多い。臨床的に黒色、褐色あるいは白色を呈し、疼痛を感じない。小さな傷なら周囲の健常組織からの上皮化と創収縮で瘢痕治癒することがあるが、多くは壊死組織の除去と植皮術などが必要となる。
Ⅳ度熱傷
皮下組織以下の筋肉や腱、骨に及ぶ非常に深い組織障害であり、機能的障害が問題となる。
≪熱傷面積≫
受傷した面積は全体表面積に占める割合(% of total body surface area: %TBSA)で算出し、熱傷面積が広いほど重症となる。
9の法則(rules of nines)
患者の頭部や片側上肢などを9%TBSA、片側下肢や体幹前面あるいは後面を18%TBSAとするなど、全身を9%の単位に分けて熱傷を算出する簡便法。成人例にのみ適応。
5の法則(rules of fives)
全身に占める頭部や体幹の割合が大きい幼児や小児では、各パーツを5%の単位に分ける。
≪重症度判定基準≫
・熱傷指数(burn index:BI):Ⅲ度熱傷面積+Ⅱ度熱傷面積÷2
熱傷面積に深さを考慮した指数。10~15以上を重症と考える。
・熱傷予後指数(prognostic burn index: PBI):熱傷指数+年齢
熱傷面積、深さ、年齢を考慮した指数で、100~110以上で極端に生命予後が悪くなる。比較的正確に予後判定が可能となる。