白血病

白血病(leukemiaとは遺伝子異常の結果、増殖や生存において優位性を獲得した造血細胞(白血病細胞)が骨髄で自律的に増殖するクローン性の疾患である。分化能の違いから大きく急性白血病慢性白血病に分けられる。すなわち、分化能を失った幼弱な造血細胞が増殖するのが急性白血病で、分化・成熟を保ちほぼ正常な形態を有しつつ増殖するものが慢性白血病である。また、分化の方向性により骨髄性とリンパ性の2種類がある。これに従えば、2×24通りの白血病(急性骨髄性、急性リンパ性、慢性骨髄性、慢性リンパ性)があることになるが、急性骨髄性白血病(AML)はその形態あるいは遺伝子変異によりさらに細かく分かれる。また慢性リンパ性白血病(CLL)は非ホジキンリンパ腫の小細胞型と同一の疾患で、リンパ腫から白血病細胞が流れてきているものと考えられている。ここでは、急性骨髄性白血病(AML急性リンパ性白血病(ALL慢性骨髄性白血病(CML3つについて取り上げる。
  • 急性骨髄性白血病(AML
    急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML
    とは、分化・成熟機能が障害された幼弱な骨髄系細胞が増殖する造血器腫瘍である。骨髄が白血病細胞によって占拠されるため造血機能が落ち、貧血易感染性出血傾向などの症状が出る(検査上、白血球が増えていてもそれは機能しない白血病細胞なので白血球の機能は落ちる)。FAB分類(French-American-British Classification)では顕微鏡的な形態に基づいて、M0(最未分化型)、M1(未分化型)、M2(分化型)、M3(前骨髄性)、M4(骨髄単球性)、M5(単球性)、M6(赤芽球性)、M7(巨核芽球性)に分けられている。このうち、一番頻度が高いのはM2である。

    AMLALL(急性リンパ性白血病)との区別は、ミエロペルオキシダーゼ(MPOの染色によって分けられ、基本的にはMPO染色が3%以上ならAML3%未満ならALLとされる。ただし、最未分化型のM0MPO陰性なのでALLとの区別はCD13CD33などの骨髄系のマーカーを確認することでなされる。

    AMLの予後は染色体異常によってなされており、大きくいうとt(15; 17)t(8; 21)inv(16)のような決まった転座があるものは予後良好群であり、染色体レベルでの異常がないものは予後中間群、複雑な染色体異常を持つもの(MDS由来のAMLなど)あるいは、5番染色体欠損、7番染色体欠損などを有する場合は予後不良群とされる。

    治療としては、M3(急性前骨髄性白血病:APL)とそれ以外で異なる。M3APL)の場合はオールトランスレチノイン酸(ATRA(商品名:ベサノイド)を用いた分化誘導療法が中心となる。それ以外のAMLはまず寛解導入療法で白血病細胞が顕微鏡で見つからなくなるまで抑えた(血液学的寛解)後、地固め療法により白血病細胞の根絶を目指す。寛解導入療法ではアントラサイクリン系のイダルビシン(idarubicin: IDRまたはダウノルビシン(daunorubicin: DNRと代謝拮抗薬(核酸誘導体)のシタラビン(cytarabine: arabinofuranosyl cytidine: Ara-Cの併用療法(IDR + Ara-CまたはDNR + Ara-C)が用いられ、地固め療法では高用量のシタラビン(Ara-C)が用いられる。先に挙げた予後分類のうち、予後良好群は寛解導入療法+地固め療法で十分治癒しうるが、予後中間群および予後不良群は再発のリスクが高いので、同種造血幹細胞移植が検討される。
  • 急性リンパ性白血病(ALL
    急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia: ALL
    とは、造血系に生じた遺伝子異常により、リンパ芽球が増殖する造血器腫瘍である。AMLとの鑑別は、MPO染色が陰性であること(3%未満)を基本として、その他表面マーカーなどを見て総合的になされる。ALLの分類は、以前は形態に基づいたFAB分類でL1L3に分けられていたが、臨床的意義に乏しいので現在は用いられていない。その代わり、マーカーに基づいてFAB分類のL1L2相当はB細胞系由来のB-ALLT細胞系由来のT-ALLに分けられている。具体的なマーカーとしては、B-ALLではCD19CD20CD22などが、T-ALLではCD3CD5CD7などが陽性となる。また、FAB分類のL3に相当するものはバーキットリンパ腫が白血化したもので、腫瘍細胞は成熟B細胞であり厳密には「急性白血病」に該当しないが、臨床病態がALLに近いのでALLとして扱われる。

    ALLの発症のピークは25歳の小児と、6080歳の高齢者2つのピークがある。急性リンパ性白血病の症状としては、貧血出血傾向などの他に、AMLとは異なり頭痛や嘔吐、精神症状といった中枢神経症状(←ALLの中枢神経浸潤による)を伴いやすい。

    ALLの原因はAMLと同じように遺伝子異常であり、特徴的な染色体異常(t(9; 22)、t(4; 11)t(1; 19)t(1; 7)など)が見られることがしばしばあるが、MDS(骨髄異形成症候群)のような血液疾患を背景として生じることは少ない(ただし、CMLが急性転化してALLとなることはある)。特に注目すべきこととしては、成人のALL3040%ではCMLと同じように9番と22番の染色体転座(t(9; 22))によるフィラデルフィア染色体(Ph染色体)が見られ、治療はPh染色体が陽性である場合と陰性である場合とで異なってくる。

    まず、Ph染色体が陰性の一般のALLの場合、微小管阻害剤のビンクリスチン(vincristine: VCR(商品名:オンコビン)とアントラサイクリン系のダウノルビシン(daunorubicin: DNR、ステロイドであるプレドニゾロン(prednisolone: PSLを中心にアルキル化剤のシクロホスファミド(cyclophosphamide: CPA(商品名:エンドキサン)やアスパラギンを加水分解するL-アスパラギナーゼ(L-asparaginase(商品名:ロイナーゼ)が併用される。また、ALLの中枢神経浸潤を予防するために、メトトレキサート(methotrexate: MTXの髄注が行われる。一方、Ph染色体陽性のALLの場合は、他のALLで用い抗癌剤(CPADNRVCRPSL)に加えて、BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤である分子標的薬のイマチニブ(imatinib: IMAダサチニブ(dasatinibを加えて治療する。
  • 慢性骨髄性白血病(CML
    慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia: CML
    とは、決まったキメラ遺伝子(BCR-ABL)により発症する骨髄増殖性疾患である。AMLとは異なり、分化能は保たれるため芽球の増加は見られず、各成熟段階の顆粒球の増加が見られる。WHO分類では、CMLの診断はBCR-ABLの存在によってなされるようになっている。BCR-ABL遺伝子は典型的には9番染色体と22番染色体の転座によって生じるフィラデルフィア染色体(Ph染色体)で見られるものであるがPh染色体がなくても、キメラ遺伝子(BCR-ABL)の存在だけで診断してよい。Ph染色体の証明はFISH法またはG-Band法にて、BCR-ABLの存在はRT-PCR法によってなされる。なお、BCR-ABL陰性で同じような所見を示すような場合は非定型慢性骨髄性白血病(aCML)という別の疾患として扱われるようになっている。

    CMLの病期は、慢性期移行期急性期に分けられており、それぞれ臨床的特徴・検査所見が異なってくる。

    まず慢性期では髄外造血による肝脾腫や好塩基球増加に伴う抗ヒスタミン血症による皮膚掻痒感等の症状が見られることもあるが、多くの場合、自覚症状はなく検査上の異常からCMLが見つかることが多い。検査では末梢血で白血球の増加(特に好塩基球の増加)や血小板数の増加が見られる他、好中球アルカリホスファターゼ(NAPを染色するとNAP陰性の好中球が減少していることがわかる(NAPスコアの減少)。また、白血球の破壊により血中の尿酸やLDH、ビタミンB12の増加が見られる。骨髄像では顆粒球の過形成が見られ、特に巨核球が増加する。慢性期で5年ぐらい放置すると今度は急性期に移行する。

    急性期は芽球が増加してきた状態であり、末梢血でも芽球が見られるようになってきたものである。すなわち、この状態は急性白血病と同じ状態であり、このように急性期に移行することを急性転化(blast crisisと呼ぶ。この状態の白血病細胞ではPh染色体以外の染色体異常も認められるようになる。この状態になるとAMLもしくはALLと同じ状態なので、貧血や出血傾向を示すようになる。急性転化症例の2/3は骨髄球が増加し、1/3はリンパ球が増加する

    慢性期と急性期の間が移行期である。わかりやすく芽球の比率でいうと2011年のWHOの定義では、末梢血もしくは骨髄中の芽球の比率が10%未満であれば急性期で、1019%が移行期、20%以上が急性期とされる(これ以外にも基準があり、芽球の割合が10%未満でも移行期と診断することもある)。

    CMLの治療は病期によって異なってくる。まず、慢性期ではイマチニブ(imatinibニロチニブ(nilotinibダサチニブ(dasatinibといったチロシンキナーゼ阻害剤による治療が中心となる。特に第二世代と呼ばれるニロチニブ、ダサチニブの方がより優れた効果を発揮する。移行期ではイマチニブによる治療成績は不良なので、第二世代のチロシンキナーゼ阻害剤が用いられ、移植可能例には同種骨髄幹細胞移植を行う。急性期に対しては急性白血病(AMLALL)に準じた治療が行われるが、長期生存はあまり望めない。可能な場合には同種骨髄幹細胞移植が行われる。

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