若年性サルコイドーシス
若年性サルコイドーシス(Early-Onset sarcoidosis; EOS)は、通常4歳以下で発症する全身性炎症性肉芽腫性疾患である。 皮疹・関節炎・ぶどう膜炎をトリアスとする。 通常のサルコイドーシスとは肺門部リンパ節腫脹(BHL)を伴わない、ブドウ膜炎による失明、関節炎による関節拘縮が高頻度にみられ、臨床的に予後不良である、という点において異なる。 現在のところ本邦での報告は30に満たず、稀な疾患とみなされている。そのため確定診断までに長い時間を要するケースも多く、また多くの症例で当初は若年性特発性関節炎(JIA)として経過観察されている。 一方、ブラウ症候群(BS)はEOSと臨床病型が酷似するものの家族集積性がある疾患である。近年、EOSとBSの疾患責任遺伝子として、自然免疫に関わるNOD2が同定され、EOSとBSは共通の遺伝子異常を持つ同一の疾患概念であることが明らかと成った。
臨床像
主な病変部位は皮膚、関節、眼であり、最も早期からみられるのは皮膚病変であるが、いずれの症状も当初は軽微ですぐ消失することがほとんどである。中には病初期から高熱を来たすような激しい症状のケースもある。また、長期経過観察し得た6例において、4例が失明、3例が成長障害、1例が腎不全という報告もあり、長期的には予後不良な疾患である事を念頭において経過観察する必要がある。
全身症状と検査所見
発熱は全く無い症例から高熱を来す症例まであり、我々の検討では12例中8例が発熱を呈している。発熱があるケースの多くでは、慢性持続性炎症を反映して、白血球増多、低色素性貧血、高IgG血症、CRP高値、ESR高値を示す。自己抗体、抗核抗体は陰性である。またACEおよびlysozymeは病初期は正常値であるが、経過と伴に高値を示すようになる。
皮膚病変
かゆみや痛みなどの自覚症状のない、軽度の角化を伴う粟粒大ほどの常色あるいは淡紅色丘疹が、末梢あるいは体幹に出現し、全身に拡大する。毛孔一致性の場合もある。年余にわたって出没を繰り返し、季節による消長が認められる場合もある。初発症状である事が多い。「小さな赤い斑点で、痛みもなく、注意深く診なければ見過ごしてしまいそうな皮疹」という報告もある。皮膚サルコイドの苔癬様型に分類されることが多いが、局面型、結節性紅斑様、魚鱗癬様、紅皮症型の皮疹も報告されている。結節性紅斑は稀で、瘢痕浸潤の報告はない。特に誘因なく出現する例がほとんどだが、BCGワクチン接種後に接種部位から拡大した例や帯状疱疹治癒後の色素脱失部に出現した例がある。
関節病変
EOS/BSの三主徴のうち、二番目に出てくるのが関節病変である。大関節部において関節と腱鞘に顕著な貯留液を伴った滑膜肥厚によって特徴づけられる。その本態は滑膜および腱鞘の変化で、骨まで侵す事はないので、病初期は関節痛、こわばり、可動域制限いずれもほとんどなく一過性であり、レントゲン検査では異常を認めないことが多い。長期化してくると、関節可動域制限、関節痛、こわばり、指趾関節液貯留を来たす。
眼病変
EOS/BSの三主徴のうち、最後に症状が出てくるのが眼病変である。通常のサルコイドーシスと同様に角膜・結膜・虹彩・硝子体・網膜・脈絡膜など眼球全体に肉芽腫性病変を来す事が特徴であるが、通常のサルコイドーシスと異なり、EOS/BSでは失明するケースも多く、QOLを左右する重要なポイントである。
その他の所見
EOSでは、通常のサルコイドーシスに見られる両側肺門部リンパ節腫脹(BHL)が見られないのが特徴である。 また、通常のサルコイドーシスの予後に重要な要因である不整脈や神経病変は、我々が収集したEOS/BS症例では認められなかったが、経過と伴に出現してくるという報告もあり、注意深く経過観察していく必要があると思われる。
病理所見
通常のサルコイドーシスの診断基準には「類上皮細胞の増殖からなる肉芽腫でLanghans巨細胞の他、周辺にリンパ球の浸潤がみられ、中心部に乾酪性壊死を伴わないところが結核性結節と異なる」と記載がある。ただ、通常のサルコイドーシスは”naked granuloma”と言われ、肉芽周囲の炎症細胞浸潤が少ないのが特徴と言われているのに対して、EOS/BSでは比較的炎症細胞浸潤が多く、広範囲に及ぶ傾向にある。