滲出型加齢黄斑変性
疾患概念
50歳以上に見られる黄斑部疾患で、黄斑部の脈絡膜新生血管(CNV)を主体とする病態であり、変性近視、炎症性、などCNVを発症してくるような他の疾患が明らかのものを除外した物と考えられる。2006年10月現在の加齢黄斑変性症診断基準作成ワーキンググループの提示している滲出型加齢黄斑変性の診断基準を示す。
主要所見 以下の主要所見の少なくとも一つを満たす物を確信例とする。
1、脈絡膜新生血管
2.漿液性網膜色素上皮剥離
ここでは直径1乳頭径以上のものをさし、脈絡膜新生血管を伴わないものも含める
3、出血性網膜色素上皮剥離
4、線維性瘢痕
随伴所見 以下の所見を伴うことが多い
1、滲出性変化:網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン)、硬性白斑、網膜浮腫、漿液性網膜剥離
2、網膜または網膜下出血
滲出型加齢黄斑変性の特殊型
網膜血管腫状増殖
病態
脈絡膜新生血管は、基盤として色素上皮の異常、視細胞の異常、脈絡膜血管の異常などいずれが存在しても発症してくる可能性が報告されている。加齢と共に、ブルフ膜の肥厚や色素上皮へのリポフスチンの蓄積といった環境変化に加えて、特にこの病態の黄斑部への指向性という点では、従来視機能に一番重要な部位であることより光障害、フリーラジカルの過剰産生、なども一因として考えられている。
脈絡膜新生血管が網膜色素上皮下にある時には典型的にはいわゆる色素上皮剥離を形成し、そこからの出血や滲出性変化、あるいは慢性的な色素上皮萎縮の進行が視力低下の原因となる。脈絡膜新生血管が網膜下に進展すると、網膜下出血や滲出性変化による視力への影響は一層強くなり、さらに新生血管および画像:繊維性増殖変化はいずれは瘢痕組織を形成し、不可逆的な視力障害をもたらす。
疫学
欧米の諸調査では50歳以上で1-2%、80歳以上になると10%を越える有病率が報告されており、女性に多い傾向がある(年齢別になると性差はないともされる)。 日本では、1998年に九州久山町の50歳以上の住民を対象におこなわれた調査では、少なくとも1眼に滲出型を有する人は0.67%、萎縮型を有する人は0.2%で、男性に多いとされている。
検査
眼底検査
黄斑部の網膜下出血、滲出斑、またこれらを伴う漿液性剥離が見られる時はこの疾患が疑われる。色素上皮の色素むらや隆起性病変(色素上皮剥離)もしばしば見受けられる。
蛍光造影検査
FA
フルオレセイン検査で主に評価するものはCNVがoccultであるか(主として色素上皮下であることを示唆)classic(多くの場合網膜下)であるか、ということと、特にclassicの場合は最初の輪郭の描出から強染色となるまでの早さやleakageの強さがCNVの活動性の指標となる。活動性のおちたCNVはしばしばstainingをいわれる像を示し、同じくhyperfluorecsenceな像を示すが、後期においても輪郭が鮮明、経時的な増強があまりみられない、といったことから活動性が低いと判断される(撮影機器によってはこの判断は難しい)。Occultな場合はoozingといわれる境界不鮮明な(初期の鮮明な輪郭像や網目状血管像を伴わない)漏出像を呈し、色素上皮下にCNVが存在することが示唆される。
IA
indocyanine green (ICG)による撮影は主として脈絡膜血管の状態を見るために行われる。別に述べるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)などはICGによりしばしば特徴的な所見を呈するので、鑑別診断に有用である。
光学的干渉断層計(OCT)
一般にはCNV活動性の指標として視力への直接的な原因となる網膜下液、網膜浮腫、の評価をするのに適している。ただ古い病巣では活動性はおちていても網膜浮腫など遷延化するものもみられる
治療
PDT 光線力学療法
現在もっとも広く行われている治療である。従来の治療に比べ正常組織への障害が少く、活動性病巣の沈静効果が期待できるため中心窩にかかる活動病巣には第一選択となっている。治療を行うにはPDT認定医の資格が必要である。
抗VEGF療法
Macugen, Lucentisなど現在国内において治験実施中である。
Avastin含め詳細については抗VEGF療法、眼科領域における抗VEGF療法参照
光凝固術
従来はMPS(macular photocoagulation study group)により境界明瞭なCNVに対する治療として大規模なrandomized clinical trialにより唯一有効性の確立された治療法であったが、凝固部が絶対暗点となるため、現在では中心窩にかかるCNVに対してはPDT治療が第一選択となった。しかし光凝固術は速効性に根治的効果が期待できるため、CNVがextrafoveaで境界が判別できる場合には現在も光凝固による全凝固が基本である。しかしparafoveaもしくは比較的foveaに近い限局性CNV(classic CNV)の場合には、PDTの拡大適応をとる場合と光凝固を行うという選択肢の両者が考えられる。これは光凝固がうまくいけばPDTより確実な根治効果が得られるが、凝固が不充分であるとCNV拡大によるリスクを負うからである。凝固が不充分な場合は治療後急速にCNVが拡大することもあるため、光凝固後は1-2週間単位で注意深い経過観察を行い、凝固不充分と判断された場合は速やかな追加治療が必要となる。網膜下に進展しているCNVについては凝固によって増殖組織自体が見やすくなることが多いので、それを目安に特に中心窩側を手堅く凝固するよう心がける。
遺伝的背景
2005年独立した3ヶ所からAMDとcomplement factor Hのpolymorphismとの関連が報告され話題をよんだ。 Klein RJ et alEdwards AO et alHaines JL et al
CFHとAMDの関連より、同じく補体のregulatory proteinとしてfactor B (BF) 及びC2についても関連が報告されている。(Gold et al Nat Genet. 2006 PMID 16518403)
しかしこれは日本人の追試試験においては必ずしも一致せず、この疾患が人種により異なる遺伝的背景をもっていることも示唆される。Gotoh et al
また、近年10q26のlocusのシークエンスLOC387715とAMDの相関も報告されている。この推定コーディング蛋白の機能についてはわかっていない。 Jakosdottir J Am J Hum Genet. 2005 Rivera A Hum Mol Genet. 2005 Schmidt S. Am J Hum Genet. 2006
疾患モデル
Ccl-2 (MCP-1) 又は Ccr-2 欠損マウスにおいてAMD様病態を呈することが報告されている。マクロファージのrecruitment及びマクロファージを介するsub-RPE depositesの除去が行われないことが病態の誘因と考えられている。Ambati et al Nat Med 2003
Sod1欠損マウスが加齢と共にAMD様病態を呈することが報告されている。Imamura et al Proc Natl Acad Sci U S A. 2006
C3-/-マウスにおいてはレーザーでCNVが惹起できず、CNVモデルの発症に補体系の関与が必要であると考察されているBora P.S et al J Immunol 2005。同様C3a, C5aのレセプター欠損マウスにおいてもCNV発症は抑制され、CNV発症に補体系によるVEGF誘導が関与していることが示唆されている。Nozaki M et al Proc Natl Acad Aci USA 2006
VLDLR-/-マウスがRAPモデルとして報告されている。Li C et al Hu W et al